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Special Interview

フラワー・ロボティクス株式会社の代表で、PINOのデザインを担当した松井龍哉(まついたつや)氏の簡単なプロフィールをご紹介します。


略歴
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1969年 東京生まれ
1991年 丹下健三・都市・建築設計研究 所員
1997年 パリ、フランス国立高等工業大学大学院に留学
1999年 科学技術振興事業団ERATO北野共生システムプロジェクト 研究員
2001年 フラワー・ロボティクス株式会社設立 代表

主な業績と活動
ヒューマノイドロボット「SIG」「PINO」で(財)日本産業デザイン振興会主催の2000年グッドデザイン賞を受賞。その後、ベネチア・ビエンナーレ国際建築展、2001年2月にはニューヨーク近代美術館(MoMA)の特別企画展にそれぞれ招待出展。
特定非営利団体IRoDA国際ロボットデザイン委員会を設立、東京大学・東京芸術大学非常勤講師、 ウェアラブルコンピュータによるファッションショーのプロデュース、最先端科学技術とのコラボレーションのプロジェクトを手がけるなど、非常に多彩な活躍をしている。

松井さんに「PINO」にまつわること、松井さんご自身についてなどインタビューしました。
全4回に渡るインタビューの第1回目は、「PINOプロジェクトへの参加」の経緯についてお伺いしていきます。
(第2回は
こちら


―PINOに関わったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?


きっかけはね。きっかけというよりは北野プロジェクトが、それまでに視聴覚研究のためのロボットの研究をずっとやっていて。そのデザインの部分でずっと携わっていたんですね。

北野プロジェクトではAIのプロジェクトと、ロボット工学のプロジェクトと二つやっているんですよ。そのうち、AIのプロジェクトのためのロボットが「SIG」っていうロボットなんですけど、その研究を北野プロジェクトでは、そのときちょうどしていたんですね。

それで、その「SIG」のデザインっていうのが一段階完成して。
そのとき、それはまだAIBOの出るずっと前だったんですけど、これから実際の人間の環境とか生活とかの中に、ロボットが入ってきたときに、その存在感とか…非常にロボットのデザイン性っていうものがすごい重要だなという話になってきていて。
■じゃあデザインも最初から考えていこうよ

表層上格好いい、とかいう意味ではなくて、ロボットの存在の意味みたいなものまで考えて、そういう大きな意味でのロボットのデザインっていうものがやっぱり必要ですね。っていう話を北野さんとずっとしていたんです。

ちょうどそのときに、今度はロボットのメカニズムの研究をやるってことになってきていて、「じゃあうちも2足歩行の研究をはじめようか。」っていうことになってきたんです。それで、「じゃあそのときはデザインも最初からプロジェクトで一緒に考えていこうというよ。」というようなスタートの仕方だったんですよ。


―いつ頃のお話なんでしょうか、それは?


それはね99年の11月だったかな。うん、大体一段階して。デザインが、ですけどね。「SIG」はまあそれから中身の研究をいまだにずーっとやってます。
それで、それから今度は2足歩行の研究をやろうっていう話になっていたときに…SIGの場合はある程度メカニックができていてから僕が関わったんですね。
大体いつもそういうやり方で進んでいくんですけども、やっぱりロボットの存在から考えていかなければならないって時に、北野さんが最初からデザインの発想をエンジニアと一緒にやる、というような話をしてやっていたんですよ。ですからいろんなことを考えていって。

■デザインはある程度、機能というものをアフォードしていないといけない
デザインってある種の「機能」と呼ばれるもののアフォーダンス、表現になってないといけないわけですね。つまり機能と表現の間にあまりにギャップがあると、それが過剰な表現と捉えられてしまう。それは、見る人、使う人に対して裏切りになってしまうんですよ。

ですので、デザインはある程度、機能というものをアフォードしていないといけないんです。ですからエンジニアなんかとPINOについてディスカッションしました。最初からそんなに歩くことはまだできないし研究もはじめたばっかりだから、ずっと10年くらい2足歩行の研究やっているような動き方はPINOにはできない。
むしろ歩き始めの赤ん坊みたいな歩き方しかできないかなっていうような、いろんなディスカッションをしていく中で、じゃあそれだったら人間がはじめて立ったときの、立って歩き出したときの大きさってどのくらいかなって、そんなところからはじめていったんですよね。

ですから、それでPINOは70cmなんですけど、70cmの子供が歩いているようなイメージがPINOが歩いていると見えてくるっていうのは、そういう仕掛けが実はあるわけですよ。

■デザインのセオリー

たとえばあんまりね、「巨大で歩かないもの」っていうのはやっぱりこわいじゃないですか。人間がね、物に対して恐怖心を感じるのは「異様な存在感」とか、「無用で大きいもの」。これは実はすごい怖いんですよ(笑)

それはやっぱり、まだちゃんと歩けないものに対して、いかにも「歩きやすい」とか「スピード感のある」っていうものをデザインをするっていうのはやっぱりデザインのセオリーとしてはおかしいわけですよ。

―たしかにそうですね。


だからよく言うんですけど、軽のエンジンにフェラーリの外装って一番陳腐じゃないですか。軽のエンジンには軽のエンジンにあった外装っていうのが必要なんですよね。
ですから、なかなか歩かないようなものに対しては、そういう外装が必要なんじゃないかって。そういう外装、それから大きさですよね。で存在感としてはそのまだ誕生したばかりと言う存在感をそういうふうなことから出していったんです。

■ピノキオというキーワード
それからもうひとつは、やっぱりロボットって人工物なわけですよね。でも、人工物だけど従来のいわゆるマシーンとは、ちょっと趣がやっぱり違うわけですよね。

ようするに、言われたことに対して何かするっていうことがロボットではないわけです。言われたことを一度考える、というとが語弊あるんですけど、ロボットの中で処理をしてフィードバックしていくわけですから、いわゆる通常の機械とは違うわけです。物理的な存在としても違ってくるし、機械の持っている役割のあり方もいわゆるステレオとかテレビとかっていうプロダクト製品とは違う。

それでいて人の形をしている、人工物である、そういうようなキーワードが僕の中で一杯あって。そういうときにいろんなことを僕が考えていく中で、ピノキオっていうキーワードにたどり着いたんです。

■世界観を見立てるという方法論

ピノキオっていうのも人間ではないですよね。ピノキオっていうのはそのアイデンティティを探すために、数々の冒険をしていきながら、最終的には「人とは何か?」ということを理解して、人間になっていくという話ですよね。

で、ロボット工学って言うのも翻って考えてみると、その「人とは何か」というのを突き詰めたい、というか、そういった知的好奇心を満たす学問なんですね。ですので我々もその人間とは何かというのを理解したくて、ロボットの研究をしています。

ピノキオのストーリーを持ってくる。これはデザインの世界では、世界観を見立てるという方法論なんですね。いままでなかったものを人の目の前に出すときに、突拍子もないものっていうのは、やっぱり受け入れられないんですよね。
それでロボットをどうやって受け入れてもらうかって言うときに、みんなが共有しているイメージ感、イメージというものや世界を、その世界観をもってこないと、なかなか受け入れてくれないわけなんですよ。

そういう意味でヒューマノイドっていうと、やっぱり恐怖心みたいなイメージを持ってると思うんですよ。とくにロボットって言うものには。だから、全然違うイメージを持ってくる、ていうのは結構重要かな、と思っていて。ピノキオっていう言葉に行き着くまでにすごく時間はかかったんですけどね。
■PINOの前には「エンジェル」というコンセプトがあったりしたんです

PINOの前には「エンジェル」というコンセプトがあったりしたんです。でもエンジェルってね、あれはだいたい4〜5ヶ月の子供なんですよ。ヨーロッパの本とかをいろいろと調べていくと。

だから、脚がまだ歩くことのできる骨格構造になってないわけ。 だからエンジェルの大きさでPINOをやると、2足歩行でちゃんとあるかないバランスになっちゃうんですよ。その大きさでやっていくと。それで良く考えたら、彼等って羽根があるから足使わないんだよね(笑)

だから筋肉が発達してなくて当然なんです。そのイメージを持ってきて脚をつけちゃうと、なかなか2足歩行のメカニズムとあわなくて、やめたっていうこともありました。
というように、いろいろ考えていって、ピノキオっていう言葉にぶつかって、全てのつじつまがあった。

■一番最初のピノキオ

イタリアの原本を読んで、ピノキオの話を掘り下げていくと、すごくシニカルな話だったり、一つの人間社会に対するアイロニーの話なんですよ。
これが一番最初のピノキオなんですね(左図)。でその僕らが知っているピノキオと、全然これは違う。イタリアで見つけてきたんですよ。イタリアのヴィエンナーレにPINOを展示したときに、これとPINOを並べて展示してたんです。「オリジナルのピノキオ」と「現代のピノキオ」っていう対比をさせてたんですよ。

ピノキオのヨーロッパでの扱われ方っていうのは、弱者のシンボルなんです。なんというかマイノリティとしてのシンボルなわけですよ。すごく苦労して人間になったっていう、そういうハッピーエンドな話じゃなくて、ある種の人間の負い目のシンボルなんです。ピノキオは人のようで人じゃない。ようするに非常にグレイな存在として存在しているから。で、ようするに弱いものの象徴なんですね。ピノキオっていうものは。お話としてね。
■ピノキオは全体のコンセプトと非常にあう

ですから、僕はそういった中でロボットのコンセプトに弱いものっていうのを持ってくるというのは、非常に革新的だなと思ったんですよね。みんなが思っているその…あ、PINOってすごくミレニアムベイビーなんですよ。だからその20世紀が持っていたロボットのイメージみたいなのを払拭するっていう意味合いが僕の中にはあったんです。

ロボットって非常にマシニズムの象徴みたいなところがあってね。いろんな機械が構築されたものなんだけどそういったものが映画で見るように人を脅かすとかね、そういう存在になっていくというイメージじゃなくてね、もっともっと実際はロボットってまだ非常にもろいもろい存在なんです。

だからロボットに、そういった怖いイメージじゃなくて、ピノキオを持ってくるっていうのは全体のコンセプトと非常にあう。

「弱さ」とか「はかなさ」とか、そういったイメージのロボット。「少年のような形」をしていて、まだ「歩く研究をはじめたばかり」っていうね、そういうことの表現がピノキオっていうものを使うことによって、全てうまく行きました。

■ディスカバリー号の中を歩いたらどんな姿になるのかな?というところから

ロボット自体は、21世紀に非常に大きな産業になっていきます。そこにはネガティブなイメージだけではいけないですから、それでもう一段階イメージをアップさせました。
「2001年宇宙の旅」っていう映画の中に出てくるディスカバリー号ってあるでしょ?
―はい。大きな宇宙船ですよね。

あそこの中をピノキオが歩いたら、どういう姿になんのかな?っていうようなところからスケッチをはじめたんですよ。

僕の場合は、イメージでなんとなく絵描いてデザインができるっていうことは、まずないんです。まず技術的に何ができるのかっていうのを、エンジニアと徹底的に話し合う。でそのロボットの現状をいうのを正しく把握して、じゃあ今それを表現するんだったらどういうストーリーを持ってきたらいいのか?っていうのを、先に裏づけとして徹底的に考えるんです。それで、ふさわしい名前を考えてからデザインをはじめる。

PINOってすごく名前もわかりやすいし、みんながPINO、ロボットっていうとピノキオをイメージしてくれる。そういったピノキオのストーリーをみんなが共有しているわけだから、すごくイメージつきやすいですよね。

で、そこからデザインっていうものを、手を、動かし始めていくんです。

―PINOという名前も松井さんがお考えになったんですか?

そうですね。それでPINOっていう名前にして、スケッチをして、デザインを始めていったんです。そんなふうにして、僕の場合は絵を描くまでに、わりと何ヶ月もいろんなことを調べているんですよ。

で、今度はちょっとデザインの専門的な話になりますけど、ロボットってのはその、通常の工業デザインの手法とは…手法というか考え方とは、ちょっと違うんですね。

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